2012年11月11日日曜日

人と人との関係性について ①




 行きつけのめがね屋さんに行った。ここは
私のお気に入りの店である。この店との出会いは偶然だった。



 一家の家計を預かる主婦である私は滅多に
高級品を買わない。仕事をするにあたりどうしても
新しいコンタクトレンズとめがねが必要になった私は
迷わずポイントカードサービスのある安売りチェーン店へ足を運んだ。
でもその日その店は混雑していた。向かいにもう一軒めがね屋がある。
(なぜか私の住む町はめがね屋が多い。田舎町なのに本当に不思議だ。)
フレームの物色でもしようと思って店内に足を踏み入れた。そして
そこの店員であるデルシュさんの対応に惚れ込んで結局その店で
全てのケアを任せることにした。



 彼女のどこに惚れたかというと、とにかく仕事に対して
プロフェッショナルであるという点だった。そしてセンスがいい。
控えめで商品を売り込んだりしない。けれど妥協を許さず
納得がいくまで丁寧に丁寧に時間をかけて仕事をする人だった。
私のコンタクトレンズを特注で注文するまで2ヶ月半かけたのだ。


 病院での仕事を始めたばかりの私にとって彼女の仕事っぷりは
襟を正される思いがした。店長と二人で二人三脚でやっているのも
(夫婦ではなく店長と雇われ人の関係)自分の立場にちょっと似ていて
好感を持てた。そして土曜日しか時間が取れない私は毎週その店に
通うことになり、彼らと仲良しになったのだ。



 コンタクトレンズは結局日本円にすると9万円ほどの高価なものになった。
けれどこれまでの私のレンズのトラブルの原因を徹底的に洗い出してくれて
私の眼球のカーブに合わせた製品で、身につけたときのフィット感は最高だった。


 是非、予備にもうひとつめがねが欲しい。けれどものすごい予算オーバーを
してしまったからすぐには買えない。彼女にそう言うとじゃあ、フレームを
取り置きにしておきましょうかといってくれた。彼女が選んでくれたフレームは
驚くほど私の顔の輪郭になじんでいた。
1ヶ月待ってちょうだい、次のお給料が入ったらすぐに来るわ。そう言うと彼女は

『それは良かった。実は私も来週から3週間バカンスに出かけるんです。
ではまたお会いしましょう。』と言ってくれた。



 けれど私は翌月そこに行かなかった。2ヶ月続けて主人の事情で急な出費が
続いたのだ。う〜ん、サラリーマンの辛さよ。



 やっとのことで昨日、めがね屋に足を運んだ。ちょっと今月予算オーバーに
なっちゃうかもしれないけど、めがねのフレームを今の古いもので使い回したら
節約になるんじゃないかな。デルシュさんもそれでも全然構わないって言って
くれたし。これからはオプテイカルのケアもチェックも全部ここでやるから
いいよね。



 『おはようございます。』開店と同時にドアを開けて元気に挨拶した。



         『いらっしゃいませ。』


 しかし対応に出て来た女性は私が見たこともない女性だった。新しい人らしい。
私のこと知らないよね。

『あのお、ヨシオカと申します。デルシュさんいらっしゃいますか?」
『デルシュはおりません。』
『今日はお休みでいらっしゃるんですか?』
『いいえ、彼女は二度と来ません。』


 は???辞めたってこと?後ろからもう一人の女性がこちらを見ている。
あの店長もいない。店内は全く同じ内装で何も変わっていないのにここは異空間。
突然私はいわれのない不安感に襲われた。SFやミステリーの世界に足を踏み入れて
しまったかのごとき違和感だ。パラレルワールド??


『めがねのお取り置きをなさっていらっしゃったんですか?』
『いえ、いえ、違います。何でもありません。すみません。失礼します。』


 気を取り直すために急いで店を出た。そして瞬時に理解していた。私は
もう二度とあの店に行かないだろうということを。あの素敵なフレームを
半額にすると言われても、もう要らない。私はデルシュさんと店長と
いう「人と人との関係性」の中で買い物をしていたのだから。





(続く)


関連サイト  藤村正宏のエクスペリエンスマーケティング
       http://ameblo.jp/ex-ma11091520sukotto/





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